大判例

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前橋地方裁判所 昭和29年(行モ)1号 決定

申請人 大沢徳次郎

被申請人 群馬県知事

一、主  文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

二、理  由

申請代理人は、「被申請人より申請人に対し別紙目録記載の建物及び附属工作物の移転に関して為した行政執行法第三条の戒告処分の効力は、本案たる群馬県知事の違法な戒告処分の取消請求並びに特別都市計画にもとずく土地区画整理施行の為の建物及び附属工作物移転命令の取消及び変更請求訴訟の判決に至るまでこれを停止する」旨の決定を求め、その申請の理由として、申請人はかねて申請外八木原節枝所有の前橋市神明町二十九番地の二の宅地の内一部(南北五間、東西約二十間、別紙現在元型見取図記載の部分、以下本件宅地と略称する)を賃借し、その地上に別紙現在元型見取図記載のとおり間口約三間半奥行約十間半の木造亜鉛葺二階建店舖及び住宅(但し内二間半に三間の二階あり)此の延坪四十四坪一棟並びに木造トタン葺平家建倉庫物置此の建坪二十坪一棟(いずれも別紙目録記載のとおり)を建築所有し右店舖において青果物業等を営んでいるものである。

ところが昭和二十二年前橋特別都市計画復興土地区画整理事業が施行されることになり、その事業の一環として本件宅地の北隣にある申請外希彰堂こと北瓜謙次の所有する店舖及び住宅(約二十七坪)の敷地となつている申請外高橋勝五郎所有の前橋市神明町三十番の二宅地五十二坪六合七勺が前橋公園下神明町通りの道路拡張によつて道路敷になることになつたため、別紙第二号計画案のとおり、右土地は申請人所有の別紙目録記載の店舖及び住宅の敷地である部分に換地されることに予定された。これにともない、被申請人は昭和二十七年五月二十八日附をもつて申請人に対し本件宅地六十坪(この坪数は被申請人の認定した坪数であつて、実際の坪数は九十坪乃至百坪である)に対して別紙第二号計画案のとおり現在申請人が所有する別紙目録記載の倉庫物置の敷地並びにその南側に接続する地総坪数六十二坪五合を換地予定地として指定する旨の通知を発し、右通知はその頃申請人に到達した。この趣旨に従つて被申請人は昭和二十七年七月十一日附をもつて申請人に対し、申請人所有の建物及び附属工作物(別紙目録記載の店舖及び住宅等)を昭和二十七年十月十日までに移転することを命ずる旨の書面を発し、更に昭和二十八年十月十五日附をもつて同様の書面(但し移転の期限は昭和二十九年一月十五日までとなつている)を再び発し、各書面はいずれも当時申請人に到達している。しかし申請人はこの命令に対し後に述べるような理由で不服であつたので移転しなかつたところ、被申請人は昭和二十九年五月十一日をもつて申請人にあて「申請人所有の前橋市神明町二十九番地所在の建物及び工作物は土地区画整理施行の為必要につき昭和二十七年七月十一日附をもつて同年十月十日までに移転するよう命令書を発してありましたが、未だこれが履行をしていないからこの戒告書到達の日より十日以内に移転されたい。もし右期間に移転しないときは被申請人において執行しその費用を徴収する。右行政代執行法第三条により戒告す。」旨の戒告書を発し、右書面は昭和二十九年五月十五日申請人に到達した。しかしながら被申請人の申請人に対する換地予定地指定、移転命令戒告等の各処分は次のとおりの理由によつて違法である。

(一)  本件宅地は土地区画整理即ち前橋公園下神明町通りの道路拡張によつて道路敷になるわけではないから、現在のままであつても何等障碍がないのである。もつとも、本件宅地の北隣には前記のとおり希彰堂こと北瓜謙次の所有する店舖及び住宅があつて、その敷地は全部区劃整理施行の対象となり前記神明町通りの道路拡張による新道路の敷地となるので、右敷地は他に換地され、その地上にある前記店舖及び住宅は当然他に移転しなければならないのであるが、被申請人は前記のとおり別紙第二号計画案の如く右敷地を換地して、右北瓜希彰堂の店舖及び住宅を本件宅地中申請人所有の別紙目録記載の店舖及び住宅の敷地にあたる部分を移転させることにしたため、申請人に対しても前記のような換地予定地指定をなし、申請人所有の右店舖及び住宅は別紙第二号計画案のとおり本件宅地中別紙目録記載の倉庫物置の敷地に当る部分に移転しなければならなくなつたのである。申請人は前記換地予定地指定をうける前後からその処分に反対しており、別紙第三号計画案のとおり北瓜希彰堂の店舖及び住宅の敷地をこそ本件宅地中別紙目録記載の倉庫物置の敷地の部分に換地し、右希彰堂の店舖及び住宅は本件宅地中右部分に移転すべきことを主張し、この案によるならば希彰堂も亦神明町通りの拡張された新道路表通りに面することになるし、申請人は単に倉庫物置を取り毀せば足り、店舖及び住宅は移転する必要がないから移転費用を必要とせず、北瓜と申請人の両店舖及び住宅が移転を余儀なくされる第二号計画案に比してこの部分に関する土地区画整理の費用経費は半減されるのでありこの案こそ公正にして且つ妥当なものと言うべきである。したがつて申請人に対する前記換地予定地指定処分並びに移転命令は土地区画整理のための必要がないから違法である。

(二)  それのみでなく移転命令書を発するに際しては、県(前橋戦災復興事務所)からあらかじめどれだけの額の移転補償料を支給するかを移転すべき建築物及びその他の工作物の所有者に内示し、協定の出来た移転料を支給するのが通例である。然るに被申請人(或いは県或いは前橋戦災復興事務所)からは本件移転命令書を発するに際しては二回共申請人に対し何等の内示や通知がなかつたのみならず、本件の移転について何ら補償を為すべき言明をしないから違法であり、したがつて又補償をしないで右移転を強制するのは違法であるのみならず憲法違反である。

(三)  前記移転命令(昭和二十七年七月十一日附のもの)がなされた後申請人は町内有力者等と前橋戦災復興事務所に陳情したり、一方において当時たまたま建設省から前橋戦災復興都市計画の為に配賦されるべき予算額の節減があつたりした結果右都市計画のための土地区画整理委員会において、前記第二号計画案を第三号計画案に変更すべく審議されることになつたのである。次いで昭和二十八年十二月二十三日には小池前橋戦災復興事務所長(前整地課長)、大橋整地課長、高橋移転課長等が申請人方へ現地調査に来たのであるが、前記予算額の節減や現地調査の結果を睨み合わせ別紙第二号計画案は白紙に還し、第三号計画案に変更すべく前記復興事務所や土地区画整理委員会で審議することになつたのである。もつとも第二号計画案にもとずく移転命令書等を取り消して、第三号に変更することについては、正式に文書を被申請人や県や前記復興事務所から発せられたわけではないがこのように本件宅地に関する行政処分が取り消されるかも知れない状態の下にあつては右行政処分の存在を前提として進行すべき爾後の処分を差控えるべきであるにも拘わらず、昭和二十九年に至り前記復興事務所首脳部の汚職事件が起り、これに伴つて右事務所に人事異動があり、大橋整理課長は高橋移転課長の後任として移転課長兼務となる等するや小池事務所長、大橋課長等は計画案の変更が土地区劃整理委員会において審議中である事情を熟知しながら上司である被申請人を補佐して同年五月十一日附で被申請人名義をもつて本件戒告処分をなしたものである。したがつて右戒告処分は違法である。

(四)  本件戒告処分は戒告書が到達した日から十日以内に別紙目録記載の店舖及び住宅の移転を強要しているが催か十日以内の短時日を限り右建物の移転を強要するが如きは、常規を逸した不当な処置であつて行政代執行法第三条第一項にいわゆる相当の履行期限を定めたものと言えないから右戒告は違法である。一般に所謂相当の期間とは六ケ月位を指称するものであるから、右法条にいわゆる相当の履行期限も履行に着手しうべき時から六ケ月後位を指すものと言わなければならない。もつとも被申請人は昭和二十七年七月十一日附をもつて申請に対し前記のとおり移転命令をしており申請人は未だにこれを履行していないのであるが、その不履行の理由は前叙のとおり右移転命令が取消されるかも知れない情勢にあつたことによるものであつて、この履行されない原因や責任はすべて被申請人にあり、申請人においてその責を負うべきものではなく、したがつて戒告書の到達後右建物を移転すべきものとすれば、前記履行期限は余りにも短日時後を定めているものであつて違法である。

(五)  又本件戒告は前記(一)、(二)のとおり違法な換地予定地指定処分、移転命令を前提としてなされているのであるから、本件戒告処分も又違法な処分というべきである。

以上のとおりであるので申請人は右戒告処分に不服であるので昭和二十九年五月二十一日被申請人に対し異議の申立をしたのであるが、右異議申立に対する行政庁の決定を経ることによつて著るしい損害を生ずる虞がありその他正当な事由があるので、右申立に対する決定を経ないで同月二十八日当庁に前叙に同趣旨の理由によつて「群馬県知事の違法な戒告処分の取消請求並びに特別都市計画に基く土地区画整理施行の為の建物及び附属工作物移転命令の取消及び変更請求訴訟」(当庁昭和二十九年(行)第四号特別都市計画に基く換地処分の変更請求事件)を提起したのであるが、被申請人は本件戒告を前提として代執行しようとしているから、これにより申請人は償うことのできない損害を生ずる虞があるので、右戒告処分の効力を停止する必要があるので本申請に及ぶと主張した。

よつて考えてみると、本件執行停止申請事件の本案訴訟において申請人は本件戒告処分の取消と本件移転命令(昭和二十七年七月十一日附のもの)の取消及び右命令を別紙第三号計画案に変更すべきことを求めているのみであることは当裁判所に顕著である。

ところで、特別都市計画法第二十六条、都市計画法第二十五条第一項によれば特別都市計画法にもとずく処分について不服ある者は訴願することができることになつているが、特別都市計画法第二十六条、都市計画法第二十五条第二項、第二十六条によると右処分が違法な処分であつて、これによつて権利を毀損されたとする者は行政裁判所に出訴することができ、行政裁判所に出訴することができる場合には主務大臣に訴願することができないことを定めている。しかしながら右の規定はいずれも旧憲法下におけるものであつて、現行憲法の施行に伴い行政裁判所は廃止されたのであるから、右行政裁判所を性質の異なる裁判所法による裁判所として読みかえ或いはその趣旨に解するのは甚だしく無理が伴うし、これらの規定は行政裁判所において取扱う訴訟事項について当時いわゆる列記主義をとつて制限を設けたことにもとずいて置かれたものであると考えられるのみならず、行政事件訴訟を通常裁判所が取扱うようになつた現在、行政部の内部において自ら反省する機会をもつことは行政裁判所において右訴訟を取扱つていた時代に比して著るしく意義を増したわけであつて、その他都市計画法第二十五条第二項、第二十六条によつて同法第二十五条第一項で原則的に認められた訴願事項を制限する実質的理由も乏しくなつたのであるから、右都市計画法第二十五条第二項、第二十六条の規定は行政裁判所の廃止せられた後に於ては法律上死文化したものと解するのを相当とする。そうとすれば前記本案訴訟中移転命令の取消を求める部分は行政事件訴訟特例法第二条の適用のある場合に当り、同条但書に定める事由のある場合を除く外前記訴願の裁決を経た後でなければ裁判所に出訴できないものと解すべきである。ところで前記移転命令及び後に昭和二十八年十月十五日附で発せられた同趣旨の移転命令はいずれも当時申請人に到達しており、申請人はこれらに対して訴願すらしていないし、いわんや訴願の裁決を経ていないことは申請人の自認するところであるし、申請人が主張するところからはたとえそれが真実であつても前記法条但書所定の事由に該当するものを発見できないのである。しかも、仮に右両移転命令を求めて裁判所に出訴するにあたり訴願をしたり、その裁決を経たりすることなく出訴できるとしても、これはおそくとも昭和二十九年四月末日の経過した時には行政事件訴訟特例法第五条第一項所定の期間を徒過しているものと考えられるのであるから、本件移転命令の取消を求める本案の訴が昭和二十九年五月二十八日に至つて提起された(この点は当裁判所に顕著である)ところでこれは不適法なものであると言わざるをえず、したがつて本件停止申請の当否を判断するに当り、右移転命令が取消されるべきものであるか否かを一応考慮する必要をみないのである。

次に移転命令を別紙第三号計画案に変更すべきことを求める部分は行政庁たる被申請人に対して新たな行政処分を命ずることを裁判所に求めるものに他ならないのであり、このような権能を裁判所に容認した法令の定めのない本件では裁判所のなし得ざることを求めるものであるから不適法であると解すべきである。

而して本件戒告が取消しうべき瑕疵をもつ処分であるかどうかについて考えてみると、先ず申請人の主張する(三)の理由については、たとえ申請人において主張する事実が認められるものとしても、右戒告の前提となる移転命令や換地予定地指定が取消されていないことを申請人において自認しているのであるから、これをもつて右戒告が直ちに取消しうべき瑕疵をもつ行政処分であるとは言えない。次に(四)の理由については、成程戒告書到達の時に、申請人が別紙目録記載の店舖及び住宅を移転する準備を始め、その時から十日以内に右建物の移転を完了しなければならないものであるとすれば、十日の期間は短きに失すると考えられるけれども、申請人も自認するとおり右建物の移転については既に本件戒告がなされた時より一年九ケ月余を遡る昭和二十七年七月十一日頃と、約七ケ月を遡る昭和二十八年十月十五日頃に、それぞれ被申請人から約三ケ月の期間を定めて移転を命じられているのであり、たとえその後において右移転命令が取消されるかも知れない情勢にあつたとしても、右命令が取消されたこともなく、申請人において右命令の取消を求める法律上の手続を何らしていないことが同人に対する審訊の結果によつて明らかであるから、かゝる場合においては申請人は右移転命令を履行すべき義務を免除されたわけではないのである。したがつて本件戒告に際し定めるべき相当の履行期限は戒告書が到達した時に直ちに申請人が履行に着手したものとして移転に要する期間をおいて定めるもので足りるのであるから、本件戒告において右期限を戒告書到達の日から十日以内と定めたからと言つてこれが相当の履行期限でないとは言えない。しかも申請人は現在に至るも右履行に着手していないことは申請人の自認するところであるし、行政代執行法によれば戒告があつた後においても代執行をするには原則として同法第三条第三項所定の代執行令書の手続を経た後でなければならないことをも考慮するならば、以上の点において、本件戒告に取消されるべき瑕疵があると言うことは出来ない。更に(五)の理由については、本件換地予定地指定或いは移転命令が無効であれば格別これらに単に取消しうべき瑕疵があると言うだけでは、既に執行の段階における処分である戒告に同様の瑕疵を帯びさせるものではなく、したがつて右戒告の取消原因として前記換地予定地指定或いは移転命令の前記のような瑕疵を主張することはできないものと考えられる。而して前記(一)及び(二)の理由((二)の理由の中本件移転命令に際し、被申請人側から移転について何ら補償をなすべき言明をしなかつたとしても、これをもつて直ちに申請人の主張するように補償をしないで右移転を強制したものと言うことはできないし、特別都市計画法及びその他附属法令によれば、右移転による損害の補償は補償審査会における補償金の決定にもとずいて県知事が通知するのであつてその時期は必ずしも移転命令に際してなされることを要しない。)は換地予定地指定或いは移転命令を無効ならしめるような重大な瑕疵を主張するものではなく、本案訴訟においても移転命令の取消を求めているにすぎないのであるから、本件戒告が申請人主張の(五)の理由によつて取消されるべき瑕疵をもつものとは言えない。(なお、申請人は別紙目録記載の倉庫物置の部分についても戒告処分の効力の停止を求めているけれども、申請人の主張自体及び当事者双方の審訊の結果によつて右建物は本件戒告の目的物件になつていないこと明らかである。)

以上のとおり本件執行停止申請の本案たる請求が理由がないものと一応判断されるのであり、本件申請も爾余の判断をするまでもなく又前叙のとおり理由なきものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 山口恒夫 毛利恒夫 柳川俊一)

(別紙目録・図面省略)

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